高調波・フリッカ同時・連続計測ソフトの使い方

1.計測システムの概要

これまでのメモリーハイコーダ(HR-8808)の最大記録長は800DIVで、フリッカ計測に必要な記録時間(40.96秒)を選択すると1サイクルあたりのサンプリング数が16と高調波を解析できるレベルになかった。2011年から発売された新しいメモリーハイコーダ(MR-8880)ではメモリー量が大幅に増加され10,000DIVまで記録できるようになり、同様の記録時間では1サイクルあたりのサンプリング数が400となり、高調波測定も十分に解析できるレベルに達した。
また、外部メモリーの最大容量も1GBから128GBまで増大されたため、メモリーハイコーダで定期的に測定し、外部メモリーに出力した波形データから電圧、電流、有効・無効電力、フリッカ、高調波および、PCSのキャリア成分まで解析可能な高次高調波特性までを一括して解析するExcelベースのシステムです。

さらに、フリッカ値については系統インピーダンスを指定することで、1サイクル毎のP・Qデータから線路電圧降下を計算し、図1.1に示すように生データの他、負荷停止条件と単独接続条件のフリッカ値を求めることができ、原因分析に威力を発揮します。
また、PV発電所を配電線連係する場合は電圧上昇抑制のため、力率指定を行うのが一般的であり、図1.2に示すようにPQの散布図を描くことにより、これらの解析も容易に行うことが出来る。

2.測定方法

(1)測定器の結線
 測定器の各チャンネルに対する入力は、図2.1に示すように、2電力法で電力を測定する結線でch1にVrs、ch2にVts、ch3にIr、ch4にItを入力します。

(2) 測定器の設定
 測定器(MR8880)の設定は図2.2に示すように、記録間隔50μs、横軸5ms/div、記録長10,000div(1divで100データとなる)に設定します。
 この設定で50秒間の記録になり4ch分のデータで1レコード7.63 MBになり、1分に1度測定すると60×24=1440データになるが、MR8880は1日毎にフォルダが作られ、1フォルダ当たりの上限が1000データとなっているため、1日のデータ量としては6.75 GBになる。
 このため数日間記録するには32GB程度の記録媒体(コンパクトフラッシュまたはUSBメモリー)が必要となる。
 データの保存先を指定するとディレクトリー等は図2.3に示すような構造で自動作成されるため、特に設定は必要ない。
 1日24時間のデータ数が1440に対して、フォルダのデータ数上限が1000個のため、必要なデータを確実に取るためには、「測定の予約」機能を用いて測定開始時刻と終了時刻を設定し、必要な時間だけのデータを保存させる。太陽光発電などでは、夜間測定を行なわないことによりメimage009.png (2113 バイト)モリーの節約にもなる。
 電圧・電流のレンジはオーバーしないレベルに設定しますが、特に電流は最大出力を考慮して設定します。
 電流の位相も合わせる必要があるが、変換時に極性を変更することも可能です。
                          

3.データの読み込みと解析処理

(1)データの読み込み

 データの読み込みと変換はExcelの解析ソフトを立ち上げ、「設定」シートで行なう。
 データ変換に先立ちPT比とCT比を設定します。CT比は電圧変換に用いたシャント抵抗や補助CT等の倍率も考慮して入力します。
 次に、受電点の%インピーダンスを電源のインピーダンスを含め10MVA基準値で入力します。
 電源周波数も指定します。特殊な場合を除きFFTサンプリング数は「512」、同期検出は「移動平均」を指定します。
 「次数間高調波演算を行う」にチェックを入れると「次数間高調波V」「次数間高調波I」のシートが現れると共に「次数間高調波」のボタンが表れる。

「一連処理自動実行」のチェックを付けると各処理ボタンが隠れ、「ファイル指定」と「フォルダ内全データ処理」ボタンだけが押せる状態となる。
 なお、「フォルダ内全データ処理」を実行すると「一連処理自動実行」のチェックは自動的に付く。
 「フォルダ内全データ処理」を実行する前にimage013.png (259 バイト)ボタンを押し、読み込みフォルダを事前に設定します。このとき末端のフォルダの日付フォルダを指定すると、そのフォルダ内のデータだけを処理しますが、その手前のフォルダを指定すると、その下のフォルダ内のデータ全てを処理する機能を有します。このため、複数日にまたがるデータも一括処理が可能となる。
 1データの処理に1分程度の時間を要することから、全データ処理に数日の処理時間を要することがある。このため設定内容に間違いが無いことを確認して「全データ処理」を行う事が重要です。
 結線や極性が違ったときは「↑入れ替え」「極性反転」のチェックをつけることで対応可能です。最初に「ファイル指定」で1データの処理を試み、データ変換値に誤りの無いことを確認することを勧める。

(2) 統計解析結果

「フォルダ内全データ処理」が終了すると「統計処理」シートに時系列データが出来ている。
このシートには時系列分析のためのグラフが図3.3に示すように13種類張り付いており、X軸の時間軸を測定日時に合わせる必要があるが、図3.2に示す「グラフ時間軸変更」ボタンをクリックすることにより全ての時間軸が自動的に変更される。

(3) 個別分析

特定の時間の詳細データを分析したい場合は、「設定」シートで「ファイル指定」ボタンをクリックし、分析したい時間のファイルを指定し分析を行なう。
次に示す各シートで、詳細な分析が行なえる。

a.「読み込みデータ」シート

 図3.4に示すように、読み込んだ元データにPCT比を掛けた生データが張り付いている。波形を表示するグラフ等もある。

b.「電力」シート

 図3.5に示すように、1サイクル毎に分析した電圧・電流実効値、有効・無効電力の三相一括値および相分割値の他、%インピーダンスを元に求めた「停止条件電圧値」「単独運転条件の電圧値」が50秒間分表示されている。
 この電圧値はフリッカ分析の元データとなっている。

c.「高調波」シート

 図3.6に示すように、1次〜17次までの高調波分析データ(電圧、電流、有効・無効電力、電圧の重畳位相角)を1サイクル毎に50秒間分表示されている。

d.「高次高調波V」シート

 図3.7に示すように、高次高調波電圧を分析したシートで、基本波から250次までの三相一括電圧および電圧を元に求めたL無コンデンサの過負荷率が表示されている。
 また、50秒分の電圧歪率でプロットした高調波分布図等も表示されている。

e.「高次高調波I」シート

 図3.8に示すように、高次高調波電流を分析したシートで、基本波から250次までの三相一括電流および49次以下と50次以上の高調波電流集計値が表示されている。

f.「次数間高調波V」シート

 図3.9に示すように、次数間高調波を含めた電圧分布を1/8次間隔で、0.125次〜256次まで分析したシートで、横軸に時間軸をとり8サイクル間隔で253データ分の解析結果が表示されている。

g.「次数間高調波I」シート

 図3.10に示すように、次数間高調波を含めた電流分布を1/8次間隔で、0.125次〜256次まで分析したシートで、横軸に時間軸をとり8サイクル間隔で約253データ分の解析結果が表示されている。

h.「儼10フリッカ計算」シート

 図3.11に示すように、フリッカを計算するシートで、「電力」シートで求めた電圧値(生、停止条件、単独条件)をFFT解析し、電圧変動の周波数分布に視感度係数を掛けて儼10フリッカ値を求めている。
このシートでは出圧変動分布の他、P・Qの変動分布を表示している。

i.「ベクトル+波形」シート

 図3.12に示すように、50秒間の電圧・電流ベクトル図を表示する他、その時の波形データを表示するシートです。